閑古鳥の唐揚げ

全然客が来ない定食屋で鳴いていた閑古鳥を唐揚げにしたら美味しくて繁盛したが閑古鳥がいなくなり唐揚げが作れなくなったという古典落語があります。嘘です。このブログも繁盛させたいです。

第54唐 海辺にて

この前のこと。

この前とは言っても、まだ残暑の厳しい9月の出来事だ。

僕は、高校からの一番の親友と海に出かけた。

その海は、東京では珍しく砂浜のある場所だった。

まもなく故郷に帰る彼に、この景色を見せておきたかったのである。

 

彼は、砂浜に到着するや否や泣き出した。

「こんなはずじゃなかった。俺は普通に大学に行って、普通に会社に入って、普通の人生を送れれば良かったのに。なんでこんなことになってしまったんだろう。」

彼が半年も持たず会社を辞めたのは、上司のパワハラが原因だった。

かける言葉が見当たらず、僕は砂をただ踏みしめる。

 

あるはずもない言葉の代わりに右足の先で見つけたのは、一匹のやどかりだった。

そのやどかりには、手足がなかった。

厳しい海の世界で傷を負ったのだろう。

僕が両手ですくい上げた時、彼はやどかりをまじまじと見つめていた。

それに気づいた僕は、波打ち際に屈みこみ、やどかりを丁寧に海に帰した。

「ほら、やどかりさんも海に帰ったぞ。」

 

しかし、やどかりは動き出さない。

打ち寄せる波に抵抗一つしない。

 

よく見ると、それはチョココロネだった。

 

「、、、すまない。」

思ってもみない状況に、とりあえず謝罪の言葉を紡いだ僕。

波打ち際をたゆたうチョココロネ。

その光景に、彼は堪らず吹き出した。

 

張り詰めた空気は、一気に弛緩した。

 

「そうか、、、」

彼は、なぜか合点がいったようだった。

「俺が東京でいくら頑張ってもダメなんだ。自分に合った場所というのがあるんだな。よく分かったよ。田舎で頑張ってみる。」

 

帰り際、海をふと振り返る。

チョココロネは、波に乗せられてまた砂浜へ戻って来ていた。

僕は、被っていた赤い帽子のつばを少し右に向け、彼の背中をポンと叩いた。