後ろから女性の悲鳴。
振り向く僕らの視線の先。
マダムの手許から弾けた赤い果実が、坂の力を借りて転がり始めていた。
「ふじだ。」
彼女はリンゴの品種に詳しかった。
流星群のように迫ってくるリンゴを少しでも救いとろうとする僕の横で、彼女は声を震わせていた。
「つがる、紅玉、、、、!」
赤い星の欠片は、立ち尽くす彼女の脚元をくぐり抜ける。
「北斗!シナノスイート!ジョナゴールド!」
頬は紅潮し、体は痙攣している。
「こんなのはじめて、、、」
ついには石畳に膝から崩れ落ちた。
その彼女の元に1個、青リンゴが流れ着いた。
「、、、、、王林!!!!!」
彼女は昇天した。
その後、彼女の意識が戻ることはなかった。
この痛ましい事故の反省として、イタリア政府は「石畳の坂の上からリンゴが転がってしまう場合、その数がいくつであろうと品種は特定の1つに統一する、またそれは赤リンゴに限る」との法律を制定した。