閑古鳥の唐揚げ

全然客が来ない定食屋で鳴いていた閑古鳥を唐揚げにしたら美味しくて繁盛したが閑古鳥がいなくなり唐揚げが作れなくなったという古典落語があります。嘘です。このブログも繁盛させたいです。

第47唐 運動貝

初の試みとなった運動貝も、ついに最後の種目を迎えた。

運動貝の発起人である校長は、対抗リレーに向かう生徒達を恵比寿天のような表情で見つめていた。彼は毎春解禁と同時に仲間達と潮干狩りに出かける生粋の貝好きで、秋にも貝関係の楽しみが欲しいと例年の運動会を中止して要素をぶち込んだのである。

各種目に貝の要素を入れ、グラウンドは潮干狩りよろしく泥んこ状態、来賓席のテントでは「私は貝になりたい」を上映する。前々から温めていた構想を発表した時には教師陣から大反対をくらったが、いざ開催してみると皆の心配はどこへやら、むしろ序盤から例年の倍以上の盛り上がりを見せた。

なにしろ、元気が取り柄の中学生達である。泥との相性は抜群だ。100m走で無駄にヘッドスライディングしてみたり、綱引きの綱をぶん回してみたりと、午前の部で出場無いはずの生徒達も泥の誘惑に負けて自分の出番まで待つことができずに泥だらけになり、昼食の段階ですでに赤組・白組の全生徒が耳の中まで泥まみれになっていた。

炊き出しスタイルで貝汁を自ら振る舞った校長は、その姿をみて大変ご満悦であった。生徒達は、匂いに釣られてやってきたカラスなどの鳥を追い払いながら、寸胴の中を見事に空にした。

午後の部も、ブレイクダンスを規定演技としたダンス演技で昼休憩の間にカピカピになった体に泥をつけ直し、食べ物をパンからチョココロネ、もといヤドカリさんに変更したヤドカリさん食い競走で脱走してグラウンドに潜って行ったヤドカリを熊手で掻き出すなど、盛り上がりに事欠かなかった。

そして、泥に足を取られて自滅が続出した騎馬戦や、ピラミッドではなくサザエを表現した組体操を終え、ついに最終競技の対抗リレーを迎えたのである。

 

下馬評では粒ぞろいの運動部員を揃える白組有利とされている対抗リレーだが、このグラウンドコンディションでは意外な展開になる可能性も高い。赤組アンカーの大野、白組アンカーの加賀美にバトンが渡るまで勝敗は分からないだろう。組体操で足の爪に入った砂を抜く入念な準備を終え、赤組第一走者の野球部エース長西と、白組第一走者の二枚目ナイスガイ志染がスタートラインに立った。

 

号砲代わりの法螺貝を校長が吹いた瞬間、観客達からの「がんばれ!」は「ボンゴレ!」に変わっていた。