実家から大量のみかんが送られてきた。
こんな時、僕は自分の限界に挑戦してみたくなる。
初めは快調だった。みずみずしいみかん達は滑らかに喉を通り、胃に収まっていく。
今年は不作と言っていたが、叔父が作っているみかんはなかなか甘くて美味しいのだ。
22個目のみかんは、その中でもとびきり甘かった。
「6本入りとかの箱アイスは1日で食べ切っていいんだよ」
「ノーアイロンシャツ以外もノーアイロンで着ていいよ」
「手洗い表示の服も洗濯機で回していいよ」
こう囁いてくる1粒1粒を口に放り込むたびに、人間の階段を1段1段降りているようだった。
そしてB1F怠惰フロアに到達した頃、容赦ない酸味が襲ってきた。25個目のみかんだ。
「買ったのに読んでない本がまだ棚に6冊あるぞ」
「今日まだ野菜摂取してないぞ」
「5歳の頃の自分に今の姿見せられるのか」
その果肉達は酸いを通り越して痛覚を刺激してきた。僕は急いで地上へ駆け上がり、なんとか体裁を保った。
その後も限界まで食べ、75個でフィニッシュ。
なかなか食べたなあと思いながら、机の上に溜まった大量の皮を袋にまとめていると、当たり前のように尿意がやってきた。
一旦手を止めトイレに向かい、放尿を終えて水を流そうとすると、便器の中から怒号が聞こえてきた。
「今日くらいさあ、大で流してくれよ!いっつも俺らを小で流しやがって!」
叫んでいたのは、いつもより少し黄色い尿だった。
「そもそもさあ、俺らを小便って呼んでるのが腹立つんだよ!俺らは尿であって小便じゃない!まず便自体にうんこって意味があるのに小便が尿で大便がうんこって意味になってるのがおかしいんだよ!小便は小さいうんこで大便が大きいうんこ、俺らは尿!それでいいだろ!なあ、一度でいいから尿って呼んでくれよ!そんで大で流してく」
僕は躊躇いなくレバーを捻った。
小と呼ぶにはあまりに大きい水流の音が、トイレにこだましていた。